ナルはフリーズしてしまったあたしを大して気にも留めず、
「ぱぱー」と抱きついてきた子どもの頭をぽんぽん、と優しく
(なんかでも適当な感じにも見えるけど)なでる。
「ナ、ナルだよね・・・?」
おそるおそるあたしが聞くと、ナルは怪訝そうな顔をした。
「なんでここにいんの?」
我ながらストレートに聞いたもんだ、と思う。
「寝ぼけてるのか、麻衣」
あたしだって、寝ぼけてるんだと思いたい。
おかしいよ!だって、この人は、この美しさは見間違えもなくナルだけど、
あたしが知っているナルよりもずっと雰囲気が違う。
頬の辺りも以前よりすっとシャープな感じだし、首ももうちょっと華奢だった気がする。
なんだか大人の男の人っていうか、年を重ねてはいるんだけど、
大人の色香がでているというか。
って何を考えてるんだろあたしってば。

ベッドから出て立ち上がったナルに、女の子が嬉しそうに飛びついた。
ナルは子どもにニコリともせずに、ひょいと抱え上げた。
きゃーという嬉しそうな歓声。
無愛想ではあるけど、ナルの顔はもういっちょ前にお父さんになっているように見えた。
信じられない光景だよ・・・あのナルが!お父さんだよ?!
「メイ、着替えて来い」
ナルがそう言って下に降ろすと、メイと呼ばれたその女の子は「はーい」と気持ちいい返事をして
ぱたぱたと部屋を出て行った。



ていうかそれよりもさ!
この状況を何とか呑み込まなくちゃ。

「あのー、ナル?」
あたしが声を掛けるとナルは振り向いた。
「ナル、今いくつ?」
その質問に、ナルはますます怪訝そうな顔をした。
「お前のひとつ上に決まってるだろう。もう呆けたんですか、谷山さん」
きれいな笑顔をもののみごとに作り上げてナルが答えた。
「ちがくて!あのね、あたし昨日はいつも通り学校終わってからSPRでバイトして、
普通に自分のアパートに帰ったはずなの!
なのに起きたら違う部屋にいるし、ここはナルの家?それにあの子はだれ?」
ナルは珍しく、驚いた表情をした。
あたしの状況をすぐに呑み込んだらしく、もう一度ベッドのふちに腰掛けた。
それからその綺麗な顔であたしをじっと見つめる。
えっと、そんなに近づかれても困るんですけど・・・。
「麻衣、今いくつだ?」
さっきのあたしの質問を、そのまま返してきた。
「19」
答えるとナルは何かを確信したようだった。
「『今』のお前は26歳。
僕と麻衣は22歳のときに結婚して、お前は23でさっきの子どもメイを産んだ」
淡々と、ナルは状況を説明する。
「ちょ、ちょっと待って。ってことはナルとあたしは夫婦なの?」
混乱したままあたしが聞くと、
「分かりやすいように説明したはずだが」
とつめたい一言が返ってきた。
「そんで、あの子はあたしが産んだの?!」
あたしの言葉にナルは頷く。
「ナルと、あたしの子ども・・・?」
呆然とあたしはつぶやく。
にじゅうにで結婚!?そんな急に信じられないよ!
だ、だって3年後には結婚してるなんて。しかも4年後には子どもまでできてるわけ?
しかもあのナルと!そりゃ、願ったり叶ったりな未来ではあるけど。
たった3年の間に一体あたしたちに何が起きたのかその前後を詳しく聞きたい・・・
・・・けど怖い気もする。

喉元までその質問を出しかけたとき、
「ぱぱーきがえたー」
という女の子の声のおかげで飲み込んでしまった。
するとベッドに腰掛けていたナルは、またメイちゃんを抱き上げる。
意外と親バカだったんだな、ナルって。