ばたばたと朝食を終えて、幼稚園バスに乗って手を振るメイちゃんを見送りながら、
あたしはほっと息をついた。

お母さんって、大変だ。
家へと戻りながら、つくづく思った。

家に入ってリビングのソファーにだらりと座ると、ナルがキッチンから出てきた。
ナルが静かに、コーヒーテーブルの上にカップを置く。
それは、ほっとするような優しい香りをゆらめかせた。

「疲れたか?」
びっくりするくらい穏やかな声で、ナルは一言落としたあと、
メイちゃんにするように、ポン、とあたしの頭に手を置く。
あたしは少しどぎまぎしながらナルを見上げた。
瞬時に顔が真っ赤になったのが自分で分かった。

「んーんー、だいじょうぶだよ。ありがと」
首を振って、視線を落として、紅茶を一口、口にする。

うん、やっぱりおいしい。
それに、すっごくうれしい。
ナルが入れてくれる紅茶を飲むのは、ヴラドの時以来、2回目だ。

ナルは頭に置いた手でそのまま、あたしの髪を少し掬っては、梳いていく。

しん、と静かなリビング。



なんだか急に、あたしたちが夫婦なんだということを自覚した。



   また次号!